第9章 決意
テゾーロが飲んでいたものだとアピールすれば食いつきもいいかもしれない……などと考えていると
ぽた、と水滴の落ちる音
え、と彼女が振り向くと、テゾーロが静かに泣いていた。
「テゾー__」
「……の……いで……」
「?」
何かを喋ったのだろうが聞き取れない。聞き直そうと口を開けかけた途端、テゾーロが物凄い近くにいたことに気づいた。___いや、今私は彼に抱きつかれている。
「!?」
「……あぁ……最悪だ」
「え、ええ!?な、はあ!?」
驚いてされるがままになっているとテゾーロは強く私を抱きしめ泣きが少し激しくなってしまった。『名前』の服に涙を落としていく。
ぎゅう、と抱きしめてくるも、振り解けそうなどこか弱いその力になんとなく可哀想になって離れづらくなり『名前』は彼の背中を撫でた。
「……お疲れ様です」
「……っ……」
そして同時に『名前』は確信した。
「(___この人、メチャクチャ酔ってる!!!)」
そう、抱きしめられた直後は動揺でそれどころじゃなかったが至近距離になった彼から発する鼻を突き刺す強い酒臭さが困惑しっぱなしだった彼女の目を覚ましたのである。
___そう、テゾーロは稀に見るとんでもなく悪い酔い方をして、それはそれは深く酔ってしまったのだ!
つまり彼は何か仕事をミスして傷心したとかではなく、大方『名前』の失踪騒動や輩への対応に疲れて苛立ち、晩酌をおこなった結果、とんでもなく酔っているだけなのである。
「(___私の心配、返せ このバカゴールド!!!)」
それが発覚した今、『名前』はそれまで彼の背中を撫でていた手を空中で拳に変えて、怒りからふるふると震えさせた。晩酌で悪酔いしてるだけかよこのバカ!
そんな彼女に気づかずボタボタと涙を落とすテゾーロにもはや呆れが勝っていた。服に染みていく彼の涙に焦りの熱が冷める。
「……いくらでもどうぞ、ほんと心配して損した___」
「『名前』……」
「どうしました?水でも飲みます?」
だんだん雑な扱いになりつつある彼女に全く気づかないまま、彼は抱きつく力をさらに強めた
「う゛っ、苦゛しい___」
「……お前は本当に、癪に障る」
「!?」
声を震わせながらも彼は確かにそう言った