第9章 決意
「……ってことで来たはいいけれど今回は大丈夫だよ……ね」
テゾーロの部屋の前に来て数分、『名前』は前回彼のもとに向かった際に起きた"あのこと"を思い出した。行為最中の彼を見てしまったあの日のことを。
まあ例えそうだとしても避けようがないからその時はその場を去るしかないのだが、こればかりは運としかいいようがない。
それにあの日はノックして返事を待たずに入った私も悪かった。
「グダグダしてたってしょうがない……なんとでもなれ!」
もうなるようになれ精神でいこうと決意をして『名前』は扉をノックした。……返事はない。
「?、結局こうなるのか……あぁもう失礼します!!!」
思い切り扉を開けて彼の部屋に入ると、テゾーロが晩酌をしているところだった。
ただ、彼の表情はどこか暗く……いつもはもちろんだがさっきの彼にあった気迫が一切感じられない。
あまりの暗さに困惑しつつゆっくり彼に近づきつつ、『名前』は声をかけた。彼のあまりの姿に"さま"付けしてしまうほど彼女は動揺している。
「…………えっと……テゾーロ、さま?」
「……お前か」
この表情の暗さ、前回彼の行為中を見てしまった時よりも酷い。どうしたんだ急に。
話を続けずに黙ってこちらを見る彼に不安になりつつ、とりあえず何があったのか聞こうと考えた。
「えっと、隣に座っても?」
「……あぁ」
いつもなら小言の一つや二つは言うのに、何があったんだろう?
「どうしたんです?いつもの貴方らしくない……あまりにも」
「……」
そうストレートに聞くとテゾーロは黙ってしまった。……あまりにもいつも通りじゃなさすぎて逆に怖くなってきた。ただ事じゃないご様子。
『名前』は彼から聞き出すことはできないと諦めてため息をつく。
「話せないならそのままでいいです、ただ……私は上司のこんな姿をみて黙って帰れるような人じゃないんですよね」
「……?」
「……貴方が落ち着くまで横にいます。よければこれどうぞ。」
「!」
そういい深く座り直して、人一人分あけた彼の隣に並ぶ。デーブルに持ってきたお菓子を置き、彼を無視して『名前』は彼が飲んでいたであろう酒に目を移した。
「わ、このシャンパン初めてみた。綺麗な色……」
「……」
「どこのだろう、香りも良いし次の商談はこれを渡そうかな……」