第9章 決意
「___これで一段落かな」
タナカさんとの会話を終えて彼が部屋を去り数時間後、『名前』は雑務に再度取り掛かっていた。
しかし『名前』が『青年』に連れられて失踪したと騒がれていた間に、テゾーロが彼女を待ちつつ いくつかこなしていたおかげで3日ほど納期までに余裕ができた。
「騒ぎになってた時は徹夜、いや死も覚悟してたけどテゾーロのおかげで助かったな……」
彼が完成させてくれていた資料の中にはその他の雑務を手助けしてくれるものも多い。3日も余裕ができたのはそのおかげでもある。
最初は原作での姿をみるにショーやカジノ王、表ではいえないような悪事が専門分野だと思っていたが、何回か手伝ってくれていた時から感じていたが彼は事務処理においても才能があるようだ。
……まあこの波乱まみれの世界で暴力や悪事だけではここまでのし上がれないだろうカジノ王をやり遂げているのだから当然か。
ぬるさが強い珈琲に口をつけ啜るとふとその"彼"が頭に浮かぶ。
「お礼しなくちゃ、な……」
かたん、とカップをソーサーに置きそのままデスクの横に置かれた小洒落たお菓子に目がいく。以前商談の際に相手からもらったものだ。
彼の好みかどうかはわからないが船内にあるお酒だいたいに合うだろう。ちょっとしたお礼の品としてはちょうどいい。
「これをカジノ王に渡すって考えると気が引けるけれど……私にはこれぐらいしか用意できないからなあ」
何千万ベリーや黄金や宝物はもう必要ないほど彼は持っているし、そもそも用意できない。かといって敵の首を持ってこれる力もない。いやそんな残虐なことできても絶対しないけど。
「ちょっと憂鬱になっちゃうけどこのまま知らんぷりはダメだよね、よし……いこう」
一度伸びをして『名前』はそのお菓子を手に、今彼がいるであろうテゾーロの部屋に向かうことにした。
今の時間帯は急用でもない限りテゾーロに用事はないはずだ。催しも既に終えているし、あの騒動のことを考えるとVIPルームにもいないだろう、獣退治に疲れているだろうし。
……でもお礼のためだけに行くのは正直恥ずかし___いや、癪だから商談でもらった資料を渡すことを本題にしよう、うん。
『名前』はお菓子の横にあった資料を手に取りテゾーロの部屋へ向かった。