第9章 決意
「エレベーターを使っていないのにこの階どこを探してもお前がいない……と騒ぎになっていた」
なるほど、彼がここに出向いたのは私が理由だったのか
「……それは何時発覚したんですか?」
「おおよそだが30分前……私はタナカから聞いてここに来たまでだ」
……つまり、私が『青年』に別世界に連れて行かれた間に運悪く起きた出来事になる。
何せ、この世界そのものから出ていったのだから証拠なんて残らないし、私はもちろん『青年』もタナカさんとは会わない。
そもそも彼は部外者だから通常通りの方法ではここには来られない。
「(今度彼が来た時は外にでて対応しないと後々面倒くさそうだな)」
「……何を考えているか知らんが、もう少し身の振り方を考えたらどうだ」
「え?」
そう聞き返し彼の顔を見あげる。そこで『名前』は初めて彼が静かに怒っていることに気づいた
「さっきから他人事のような態度をとっているがこの騒ぎの元凶はお前だ。私を騙すのならもう少し上手く立ち回れ」
そういい冷たく見下ろす彼に、当たり前に私は屈することしか出来なかった。少しでも動き方を間違えれば簡単にこの船から追い出されることを再確認する。
とはいえ本当のこといえば証拠と信じさせるに値する信用を得ていない以上、それもまた追い出されて終わるのは目に見えている。
「(どうすれば……!)っ私はただ__」
「それでも騙る気か、残念だ」
言い訳を試行錯誤していると、テゾーロは私を見限ったのか片手の指輪をひとつ、抜き取った。
「……あ」
ああ、これ映画でみた。
あの映画では彼の能力を表すための犠牲として、ルフィの夢を笑った男がテゾーロに金にされていた。
その時、彼がはめていた指輪を抜き取り男に投げかけていたはずだ。
ということは、今から私は同じように彼に___
「お待ちください、テゾーロ様」
「「!?」」
終わった、と諦めていた『名前』と能力を行使する1歩手前だったテゾーロの間に突然。タナカさんが現れた。
驚いた二人は思わず直前までとっていた姿のまま固まってしまう。
そして数秒、時が止まったかのように思うその間を破いたのはタナカさんだった。
「……おやおや、お取り込み中でしたか?」
「何の真似だ、タナカ」
そう睨むテゾーロに対してタナカさんは意地悪そうに笑っている