第9章 決意
「とはいっても……あの世界にいる以上、泣いてる暇なんてなかった。それに純粋にそれ以上に私は嬉しかったの。憧れていたこの世界に来れたことが」
そういい『名前』は本棚に並ぶ今自分が移り住んでいる世界をみる。目でルフィの冒険が記された背表紙をなぞり、穏やかに微笑んだ。
「確かに最初こそは怖かった。簡単に命を奪う人たちに囲まれていて、貴方に本当は能力が得られるはずだったって聞いた時……すっごく羨ましかったの、無力でたまらなかったから。」
「……」
「けど今は違う。そうやって必然的に助けて貰ってきたから、この世界に恩人ができた、そして部下も。彼等を無下に見捨てて身勝手に去るなんて……私にはできないし、したくない」
「……それは自分の命を護るすべを得られないとわかっても?」
「うん、というより……このまま去ったら私天竜人に負けっぱなしじゃん。せめてルフィがぶん殴る記事を見なきゃ気が済まないのよ!」
はやくこないかなシャボンディ諸島!と『名前』は五十巻あたりをみて拳を握りしめる。
彼女のあまりのたくましさに彼は驚くほかなかった。
「(普通、どれだけ好きな作品とはいえここまで命の危険が及んだら帰りたくなるもんじゃないのか……?それも俺が元の酷い暮らしにはならないようにするって言ってるのに?)」
異世界から来てもこの世界に恩恵を与えられなかった、変わらず一般人となってしまった彼女だが、確実にその精神力はただものでは無い。
いつも通り、生きることに精一杯で死にそうな人を今より生きやすいと考えて連れてきたはずだけれど、もしかして彼女はとんでもない___
「……それで、作業中の私を無理やり連れてきたのはこの話をするためってこと?」
「!あぁ、そうだよ。心配してたけれどその様子なら平気そうだね……もしまた心変わりした時は、いつでも言ってくれ」
「いつでも、ね。今度はいつ会えるんだろうねえ?」
少し皮肉って意地悪そうに彼女は微笑んだ。連れてくるまでの辛そうな顔が少しほどけたように思う。
「ハハ手厳しいな、まあそんなワケで俺はこれまで以上に気にかけるよとだけ言っておくよ」
そういい彼は指を鳴らして空中に、いわゆるワープホールなるものを生み出した
「!」
「ここを通れば君の部屋に戻れる。大丈夫、飛ばしてから時間はそれほど経ってないよ」