第9章 決意
彼の言葉に反応し『名前』の体がふる、と震えた。
「そう、異世界の人は飛ばされた先の世界でとてつもなく凄い才能を開花させるんだ……それこそ俺のこの力だって」
そういい彼は自身の胸に手をあてる。
「元はワンピースからだけど現実に転生したといえばそうなる。どの世界においても異世界者は恵まれるべき存在なんだよ。何しろ存在が異質だから。」
でも、と彼は私を真っ直ぐ見る。
「……でもおかしいんだ。君はここにきて数ヶ月経っても一向にその何かが起きない。」
「!」
私が、おかしい?
「本来なら俺が飛ばしてすぐ、いや長くても1週間で何かの能力を得られる。それによって簡単にその世界のキャラクターとともに過ごせたはずなんだよ。」
「君が今まで連れてきた人は皆そうだったの?」
ああ、と彼は頷く。
つまり彼の言う通りならば、私は存在を知る程度ではあったものの夢小説や夢漫画の一般人が飛ばされて能力を開花させていたのは、そういう世界そのものによる仕様だということになる。
彼がどれだけの人数をワンピースの世界にに呼び寄せていたのかと思うと少し怖くなった。
「本当なら……天竜人の奴隷になるにしろ、その見返りとして君は悪魔の実を食べる機会があったはずだし、もっと君は楽しくワンピースの世界を過ごせていたんだ」
「……でも私はそうはならなかった」
「よく分からなくてもいい……けど、外から来た君のような……所謂異世界者はその先の世界に恩恵を与えられる。その世界に馴染ませるために」
彼が言うには、勿論この間言ったようにワンピースだっていくつものパラレルワールドがあるけれど、相当変なおこないをしない限りは番狂わせを防ぐために、馴染ませるためにそう作用するらしい。
だが私の場合は___
「君にはそんな様子が一切見られない、想定外なんだよ」
私にはなぜか、その兆候が見えないのだ。
つまり、異世界者には絶対に与えられるべきものが与えられず、私は私のままでこの世界に馴染まなければならない……
「……」
そう聞かされた『名前』はただ、その事実に黙り聞くことしか出来なかった。そんな彼女をみて彼はハッと我に返る。
「っ違う、君にそんな顔をさせたくてこの話をしているんじゃなくって……その、君に提案があるんだよ」
「……提案」
『名前』は彼の声に俯いていた顔をあげた