第9章 決意
「……っはぁ」
『名前』は小指でこぼれかけた涙を拭い、無理やり気を落ち着けてパソコンに向き直った。
その様子に彼は彼女の心情を察し態度を改めて立ち上がり出口の扉へ向かう。
その姿をデスクトップの反射でみていた『名前』は結局なんだったんだと思いつつ、きちんと資料に向き直った。が。
ガチャリ
「!?」
彼が出ていく事で鳴る扉の音ではなく鍵の閉まる音に彼女は驚き振り返る。彼はこちらを見ていた。
「俺も少し思ってたんだよ、アンタがなんでこんなめに合ってるかをさ」
「……!?ちょ、こっちにこないで」
彼は私にまるで答える気がない、何をする気なのかわからずただ怖がることしかできなかった。そんな自分に対して更に無力さを感じる。
ただ歯を食いしばり彼の次の行動に耐える準備をするほかなかった。そうして彼は『名前』の目の前に立ち一度息を整える。
「少し時間を "作ろう" 、『名前』」
「えっ」
___彼が指を鳴らした途端、世界が真っ暗な闇に包まれた。
「……?ここ、は」
『名前』は辺りを見回す。さっきまで座っていたはずの椅子や作業机はおろか、私の部屋そのものがない。黒色と目の前の彼しかないこの場に困惑している。
その様子をみて外傷はなさそうだと確信した彼は口を開けた。
「ここは次元の狭間、俺の能力で次元を超えるために来なきゃいけない中間地点。」
そういい下をみろと指さされた先を見ると、現世のスクランブル交差点の情景やワンピースの世界の一部が映ったり消えたりとしていることに気づいた。
「これは……私の家!あっ」
自分の部屋が映り、思わずしゃがんで手を伸ばしたがすり抜けてすぐ消える。どうやらどの情景も映るが、私には何も出来ないらしい。
「その情景がそれぞれの世界の様子を表してるんだ。そして俺だけがその場所に行くかを決められる。コエコエの能力の力で。」
そういってもう一度彼は指を鳴らすと、今度は木造建築の簡素で清潔な家に移動していた。
鼻にとおる澄んだ空気が目を覚ます。窓の外をみると自然豊かな場所で無限にも思える草原と周囲の木々、遠くに山が見えた。
「そしてここはとある絵画の世界、俺はここで暮らしているんだ」
へえ……と圧倒されていると部屋にある大量のワンピースの漫画や小説、雑誌などが並んだ本棚に気づいた。