第8章 異質
私の先を行く彼は人混みを軽い足取りですり抜けていく。
たくさんの人が行き交うグラン・テゾーロ船内の道をまるで風のように通り抜けていく。
「(数ヶ月過ごした私でもあんな風に動けないのに!)__わっすみません!」
「おい気をつけろ!」
対する私は何回かすれ違う客にぶつかり謝りつつ、彼の後ろを付いていく。
それにしても、普通この世界では一際目立つ筈だ。
何せ少年漫画の世界に一人、少女漫画のメインキャラのような風貌。
だが周りの客が一人も彼に関心を持たないどころか無視する姿は外から来た私にとってあまりにも異様だ。
そうして船の端へ向かうと、海がよく見える簡単な談話スペースのような場所についた。こんな場所があったとは……
「初めて来た……」
常に何かが輝く船内ではほとんど見えない星々がここではよく見える。美しさに思わず『名前』は海へ身を乗り出した。
そんな私の姿に彼は不思議そうにしている。
「あれ、知らなかったの?もう来たことがあると思ってここ来たんだけどな」
そういい彼は近くにあった木箱に腰掛けた
夜空に浮かぶ月に照らされた彼は、姿も相まって少女漫画のワンシーンのよう
「あなたはよくここに来るの?」
「まあね」
「そっか……さっきの話の続きだけど、あなたは何者?」
そう指摘すると彼は意地悪そうに笑った
「そうだね、端的に言うなら俺はちゃんと現世を知っているキャラクターだよ」
「……もっと簡単にいうと?」
全然わからない『名前』の様子に彼は吹きだした
「っぐふ、ははは!……ごめんごめん、こう言えば話が早いかな」
「何が面白いの……というと?」
「俺はね、アンタを"この世界"……ワンピースの世界に連れてきた張本人だよ」
「……はあ?!」
『名前』は想定外の答えに理解に数秒かかった上に感嘆詞以外の言葉が出なかった。
「(い、いや待てよ。彼は私を動揺させたいだけかもしれない。ブラック企業務めぐらいでっち上げでき__)」
「ついでに証拠に言うと、君の現世の勤め先は㈱暗黒商事」
「ぎゃあああ!!口にするな!二度と思い出したくない!」
心でも読まれたのだろうかというタイミングだが、そんなことよりも『名前』にとって名を言われることは地雷を踏まれるが如くの辛さだった。