第7章 天夜叉
そうなれば、と思ったところで金属音を超えた爆音が室内に響いた。音の正体は巨大な賽子と鐘のような鉄製の筒、つまり今回はよく見知ったあの丁半で賭けを行うのだ。
……っていうか、この場において身勝手に巻き込まれた私の意思をガン無視な辺り、本当にコイツら最低やすぎないか。今更ながら彼等の身勝手さに肩を落とし正気に戻るとドフラミンゴの腕の中にいることに不快感を覚え、彼の腹部を押し離そうとした
「もういいでしょ離して」
「フッフッフッ、そう照れるな」
「違う!ただ不快!」
こちらの嫌悪感丸出しの視線に気づいている癖にケラケラと笑う彼、ビクともしない腹を押しつつ効果の無い怨のこもった目を向ける。拳で彼の太腿を小突くとようやく彼は私を解放した。全くこの世界の男共は自分勝手たらありゃしない──画面越しの時から知っていたけど!
それに、例えドフラミンゴが私をテゾーロから引き離そうと私の主目的は変わらないのだ。ただ気がかりなのが私の主人のこと。
「……」
一見平静を装っているテゾーロだが本心はきっと違う、握りしめた手が微かに震えている、あれは怒りか何なのか。少なくとも私のことをどうでもいいとは思っていないらしい。それが得れたならもういい。
「──テゾーロ!」
彼の名を呼ぶと少し驚いた表情をした彼に思わず頬が緩んだが気を取り直す
「私は貴方に賭ける!」
「……はっ?」
テゾーロ含め、周りの正気かよという目線が全身に刺さる。
「私が何言ったところで意味無いでしょう、──どうぞご勝手に!」
呆れを通り越して口が開いたまま何も言わないテゾーロ、さっきまで笑っていたドフラミンゴも少しひいている様子。ちょっとだけいい気味だ。
「それでは私は身支度もかねて、お先に失礼します」
『名前』は爽やかすぎるぐらいの退勤スマイルを彼等に向け、エレベーター付近にいるタナカさんの元に向かった。いつも落ち着いた彼もまた、周囲と同じく動揺しており慌てた様子。
「ほ、本当によろしいんですか」
「うん、正直言うと散々巻き込まれて気分悪いし……外の空気吸ってくる」
「今回はお金じゃないんです、あなた自身を賭けられているんですよ!?」
いつもなら笑顔を崩さず冷静に遂行するあのタナカさんが、わかりやすく私を心配してくれていることにキョトンとした。