第7章 天夜叉
彼もまた『名前』にいつも通りの優しい顔をしてみせた。その一時の和やかさを水を差すようにドフラミンゴが問いかける。
「フッフッフッ、お前の主人はまた"ヤッてんのか?"」
「ええ、どうかされましたか?」
「相変わらず趣味が悪ィな!フッフッ」
「そうでしょうか?ドフラミンゴ様が来られない日はもう少し控えめですよ」
「……よく言いやがる」
彼はくっくと喉で笑いつつ先を歩いていった。2人の会話についていけてない『名前』は交互に目を向け首を傾げる。
「今のは……?」
「ああ『名前』さんは初めてでしたね、憂さ晴らしとでもいいましょうか」
「"憂さ晴らし"?」
見ればわかります、と促され『名前』はテゾーロがいるであろうスペシャルゲームの会場に歩を進めた。途中、がらりとした廊下に今朝通路でのされていた部下達を思い出した。今頃救護室のベッドにみな眠っているんだろうか。
「ぎゃああああッッ〜!!」
なんて想像していたら突然耳をつんざくような悲鳴があたりに響いた。そして続けて聞きなれた声が。
「丁だ、残念だったな。さっさと5億ベリーを寄越せ」
「〜〜〜!!!」
そこにはスペシャルゲームをし丁半で大負けをして泣きを見ている貴族(らしき人)と、いつにも増してすこぶる不機嫌そうなテゾーロの姿。あんなに怖い顔をするテゾーロは初めて、いや太客になりそうな相手に多額のゲームを仕掛けているのも珍しい。……よく見ると周りの部下は若干強ばっているし、バカラは目を逸らしていた。困惑する『名前』にタナカさんはそっと囁いた。
「これは……?」
「これが"憂さ晴らし"です。無差別に無茶苦茶なBETを強要させ"いつも通り"勝つ。憂さ晴らしのゲームです」
なるほど確かに憂さ晴らしだ──"彼"のことを考えると容易に納得できる。一方ぷるぷると震えた貴族()はヤケクソにテゾーロへ襲いかかろうとした。
「──こ、こんな、認めるかああ〜!!!」
「!?、やめ──」
『名前』がその行為を止めようと駆け出しかけたが、黄金帝は一言発してそれは無意味に帰した。
「───タナカ」
「はい」
「!?あああ〜っ………」
ひ弱い悲鳴とともに突如ポッカリあいた穴に落ちていく貴族。黄金の牢獄にご招待されてしまった。その様子を呆れて眺めた。
「あー、容赦ないアレに意味ないって……」