第6章 絡み合い
苦笑いをしながら『名前』は彼女に同情した。
「それに関しては共感します……カリーナさん」
「でしょ?噂によると昔好きだった人が忘れられないらしいけどね。」
とはいいつつも興味なさげにいう彼女に何故かナミの姿が見えた。泥棒猫と女狐、やはり近しい存在である
にしてもテゾーロに"お気に入り"が存在するとは思わなかった。
まあ確かにテゾーロガールズがいるのだから色恋もあるに決まってるか。ていうかさっきみたアレが証拠だし。
「とりあえずテゾーロにお気に入りがあったのはビックリ。さすがこの船の歌姫は伊達じゃないですね」
「ふふ、ただここに来てるわけじゃないからね」
「ほう?」
今の含みのある言い方は"アレ"のことだな。と心でニヤケながら彼女に目を向けると、彼女は人差し指を口に当てていた。
「まだ秘密。ウシシッ」
「ふふふ、そういうと思いました」
「!……今の言い方気になるわね」
予想外の反応だったのかカリーナは余裕気な顔を崩した
その反応を楽しみながらも思惑がバレないように返した
「い、いや立場上同じとはいえ先輩に挨拶出来ずじまいでしたから。せめて知っておこうと思いましていろんな方に__」
「私のことを聞き回ってたの?」
「……不快でしたなら謝ります」
カリーナは返事の代わりに弾みで雫が机につくほど荒く珈琲を置いた。彼女は真っ直ぐ私を見つめ口を開いた。
「なら社交辞令はもういいわよね?単刀直入に言うわ……アナタ、何者なの?」
真剣な顔でそう問う彼女に『名前』は間抜けな声を出してしまった。
「はい?」
「本当は私アナタに挨拶しに来たんじゃないの、何も無いならそんなに露骨に戸惑わないわよね」
あっこれ勘違いされてる。と気づいた頃にはもう遅かった。
カリーナはこちらを怪しそうに睨んだまま変わらない。
返答を間違えて意味もなく陥れられるのはゴメンだ
「待って、落ち着いて下さい。何か勘違いして」
「大体経歴が怪しすぎるのよね」
「!」
「テゾーロがやけに……まあいいわ、どうせ本性は見えてるから」
カリーナは滑らかにするりとテーブルに身を乗り出し、『名前』の耳に手を触れた。
「さあ、白状してよ。」
「!」
それはもう、艶やかに彼女は言った。
そんな彼女に私は、ただ、
「これが女狐……」
心の声を漏らしてしまった。