第6章 絡み合い
動揺し震えつつも珈琲を零さずにいる彼に少し感心しつつ彼を見ると、ワナワナとする彼。
カップの持ち手を見ただけでわかるぐらいに強く握り締めている
「私がそんなことをする程 落ちぶれているように見えるか?」
『名前』は首を傾げ当然のように返した
「でも女の扱いに慣れてるじゃないですか」
「……当然のことだろう」
彼の無理やりな笑顔は口元がひきつり、バッチリと怒りマークが見える
なかなか面白い反応ではあるがこれ以上は私の命も危うい
そろそろ大人しくきこうとする『名前』なのであった
「ですよね!……向こうが求めてきたと」
「そうなるな」
つまり、テゾーロの魅力に溺れた女が無理やり性行為に漕ぎ着けたといったところか
可哀想に、彼の心にステラがいる限りその恋は叶わないというのに
「でも意外ですね、素直に応じるなんて」
「……身体ぐらいどう使おうが今更だろう」
「!」
彼は何も言わず珈琲を置き宙を見つめ続ける
__しまった、奴隷時代の記憶を思い起こさせてしまった
ハッとして焦っていると彼は突然こちらに顔を向けた
「!」
なんとなく、彼の美しく透き通るような金色の髪と整った顔に目を奪われたのもつかの間
「……」
しばらくの沈黙の後、彼は突然___
「……?!」
『名前』の体に覆いかぶさった
突然のことに対応出来ず被されてしまった
身動きがとれない私をテゾーロは無表情でこちらを見下ろしている
神が人を哀れむように
「な、なんですか突然」
彼に睨みを利かすが猫が人を睨む程の威力しかない
勿論彼はものともせずにこう言った
「……少し」
「は?」
「興に乗った」
私は声すら出せなかった
気づけば私の口は彼の口によって塞がれていたからだ
「!?!?んっ……んぅ!?」
そしてそれがキスだと理解したのは数秒後
予想だにしなかったことなので驚くことしか出来ない『名前』
無視し続ける彼に少し怖さを覚えたが
ふと奴隷だった時の諦めの心が舞い込んだ気がした
「(あ……)」
彼の腕をつかみ引き剥がそうとした手は空気を掴みそのまま倒れていく。
微かにぼうっとする意識に珈琲の苦さが刺さり唾液と絡んでは喉を通っていった。
ひとしきりキスをしたテゾーロは彼女から離れてソファに座り直し置いていた珈琲を飲み切った。