第1章 嘘つき
「さん、大丈夫?」
声に顔を上げると、山田…山崎さんが立っていた。
「ごめんね。びっくりしたよね」
私は首を振って立ち上がった。
「びっくりはしましたけど、大丈夫です」
猫にエサをあげていない事を思いだし、いつものようにタッパーを置き、なんとなく二人で猫を見守った。
「山田さんじゃ無かったんですね」
「あ、うん」
「だから嘘つきって言ったんですね」
「…うん。ごめん」
「謝らないで下さい。それがあなたの仕事なんでしょう」
「…うん」
エサを食べ終えた野良猫は、私の足元にもう一度喉元をこすり付けて去って行った。
「私も帰ります」
「あ、送るよ」
「大丈夫です」
「いや、沖田隊長に言われて。もう暗くなってきたし」
山崎さんの視線の先に目をやると、あの若そうな隊士が無表情で親指を立てていた。