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「薄紙の」「今はさは」

第1章 嘘つき


私はたぶん初めて、いつもの装備を付けずに店へ向かった。
メンテナンスとかで急な休みを告げられたのは昨日の夜、いつものように送ってもらう車中だった。
普段着のワンピースにパーカー、スニーカーに薄い化粧で店の近くを歩くのは、なんだか妙に恥ずかしい。
猫にエサをあげたらすぐに帰ろう。そう思い、なんとなく小走りになった私は、角を曲がった所で人にぶつかってしまった。
「キャッ」
「うわっ、すいません」
相手を見て、目を見開いた。
「山田さん!?」
「えっ、さん、なんで」
私と同じように目を丸くした山田さんは、いつもの黒服姿ではなかった。いや、黒い服というところは同じだけど、彼が着ていたのは、真選組の隊服だった。
「…山田さん?なんで」
「おい山崎!」
私の声をかき消したのは、亜麻色の髪の若そうな隊士だった。
山田さんは困ったような顔で私を少し離れた所に連れて行き、ここにいるよう言って先程の隊士の元へ走って行った。
店からは、手錠をかけられたオーナーやベテランの黒服、先輩ホステス、常連客が続々と出て来て、パトカーに乗せられていく。
オーナーは山田さんを睨み付け、
「てめぇ、幕府の犬だったのかよ。騙しやがって!」
と怒鳴った。
そこで、ようやく私は事態を飲み込んだ。
あぁそうか。山田さんは真選組の山崎さんという人で、店には真選組の仕事で来ていて、私なんかとは、全く別世界の人だったんだ。
急に力が抜けて、その場にしゃがみこんだ。
足元に暖かいものを感じ、目を向けるとあの野良猫が私を見上げていた。
「おいで」
そう言って抱き上げ、しばらくその暖かい体に顔をうずめていた。
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