第2章 2
お嬢様は、自分の話に曖昧にうなずく川島にため息をついた。
「まーた聞いてない。こういう話すると真面目に聞いてくれないよね、川島って」
「そんなことは……」
川島が素っ気なく答えた。
「なんか機嫌悪い?様子変だよ?」
「……」
間が空き、部屋が静寂に包まれる。お嬢様は、なんとなく気まずいような空気を肌で感じていた。
押し黙っていると川島が先に口を開いた。
「ずいぶん――、」
声が掠れ、途切れる。
「ずいぶん遅いお帰りでしたね」
グラスを片手に、お嬢様の目を真っすぐ見つめながら川島が言い直した。
「あ、うん……ごめんね。忘れないうちに感想とかまとめて、考察してたら集中しちゃって」
「お嬢様は一旦集中すると他のことはすべて疎かになりますもんね。だから携帯をお忘れとはいえ連絡のひとつもできなかった、と……」
「ごめん、本当に。心配かけて」
「べつに。お嬢様が楽しそうでなによりですよ。オレのところに戻るよりも大切な、熱中できるものがあるなんてね」
無表情でいい放った川島に、お嬢様は眉をひそめた。
こんな態度は見たことがない。
こんな拗ねたいい方をする川島は。
顔には出ていないけれど、もしかしたら酔っているのだろうか。
そんなはずなかった。川島はワインを1、2本開けたくらいで酔った姿を見せたりしない。
言葉も物腰も素面のときと変わらない。
いつもと違う様子に心配になる。
「川島、大丈夫?いつも酔わない人が酔うなんて体調わるい証拠だよ」
いって、川島の腕を持ち上げ自分の肩にかける。
部屋へ連れて行こうと立ち上がった。
「……やめてください。酔ってなんかいませんよ」
川島が抗う。
お嬢様は無視した。
強引に川島の部屋まで引っ張るようにして連れて行く。
川島の首筋から、ワインの華やかで甘い匂いがふんわりと香った。
その香りから離れがたい気持ちを隠しながら、ベッドに寝かせようと部屋の中に押し込む。
どうせ眠るのだから、と思い電気はつけないままにした。