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嫉妬は最大の愛情表現

第1章 1


そうこうしていると、公演終わりの時間が近づいてきた。あと少しでお嬢様が帰ってくる。

今日の話を、これでもかと聞かされるのだろうか……。

川島はまた、在るはずのない臓器にチクリと痛みを感じた。
 
お嬢様の口から他の男の話が出るのが耐えられない。
ゆるせない。もはや拷問に近い。

器量のせまい自分が嫌になる。

お嬢様以外のことを考える余裕もなかった一日に、半ば呆然としながら川島は何度も手を開いては握りしめた。


    *


――おかしい。

帰宅予定の22時をすぎても、お嬢様が帰ってくる気配がない。遅くなるという連絡もない。

迎えはいらないといわれていたので、ただ待っているしかなかった。

バルコニーに出てお嬢様が帰ってくる方向を見つめる。夜風が川島の髪を揺らした。

何台かタクシーの明かりが近づいては通り過ぎていく。

いてもたってもいられず玄関を飛び出し、邸の前を野良犬のようにうろつき廻った。

それから1時間ほど待っていたが、お嬢様は一向に帰ってこない。

川島は今すぐお嬢様を探しに行きたかった。

だが、やはりそれは叶わない。探しに行っている間、すれ違いになる恐れがある。

自分にできるのは、ただこの家で待つことだけ。
もどかしくて気が狂いそうだった。

もしかしたら今夜はこのまま帰ってこないんじゃ……そう思うと、もう止められなかった。

キッチンに続いている部屋のドアを開けた。
ミニバーとカウンターがある。

お嬢様と一緒に飲もうと用意してあったワインの栓をあけた。口に含むが、なんの香りも味もしない。

川島はカウンターのスツールに腰かけ、ひとり黙々とグラスを傾けた。

なにか違和感を感じる。

いつもならワインの1、2本で酔うことはまずないのに、今日は神経に変調を来しているのが自分でもわかった。

アルコールがダイレクトに脳味噌にまわっている気がする。

「お嬢様……」

何度も連呼しながら、それでも飲みつづけた。

突然、靄(もや)のかかった頭の中に音が飛び込んできた。
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