第4章 日常
「ただいま」
「お帰り、お兄ちゃん」
帰宅するとリビングに妹の舞がいた。
何気なく見たその前髪に、ふと目がとまる。
「なぁ、その前髪とめてるの」
「ヘアクリップのこと?」
「それヘアクリップって言うのか···。そう、それ使ってないのない?」
頭に浮かぶのは図書館で見た前髪をかき上げるカズの姿。
「あるけど···お兄ちゃんが使うの?」
舞が怪訝な顔をする。
確かに俺の髪の長さじゃ必要ないもんな。
「違う違う、今日友だちが前髪邪魔そうにしてたからさ。使ってないのがあるなら借りていい?」
「···彼女?」
「違うよ、同じ学校の友だち」
「お兄ちゃん男子校じゃん」
舞はますます怪訝な顔になった。
「そうだけど」
「男友だちにヘアクリップ?」
「男だけど可愛いし、似合うと思うんだけど」
ヘアクリップを着けたカズを想像してみる。
想像だけでもめちゃくちゃ似合う。
うん、絶対可愛い。
想像のカズの可愛さに危うく頬が緩みそうになる。
舞は複雑そうな顔で俺を見ていたが、何かを悟ったような顔になって黙ってヘアクリップを貸してくれた。
ハートのついた可愛いやつ。
お礼を言って受け取ると、忘れないようにすぐに鞄にしまった。