第4章 日常
最初は曲がってた翔ちゃんのネクタイが気になって直してあげただけだった。
翔ちゃんは意外と不器用で。
着替えの後、ネクタイが曲がってることが多くて。
何回か直してるうちに、いつの間にか最初から俺が結ぶようになってた。
まぁ、毎回俺がしつこく言って手を出してたからだと思うけど。
それでも翔ちゃんが当たり前みたいに俺に頼んでくれるのが嬉しくてたまらない。
でもさ、中学だってネクタイはあったよね?
高校になっても色が変わるだけだもんね。
ふと気になって聞いてみた。
「今まではどうしてたの?」
「え?」
「ネクタイ」
「鏡見て直したり、潤にやってもらったりしてたよ」
「······そっか」
自分で聞いておいて、ちょっとへこむ。
潤くんは俺が知り合うずっと前から翔くんと仲良くて。親友で。
分かってる···分かってるけど。
「カズ?」
「···潤くんでもやだな···翔ちゃんのネクタイ結ぶの」
ついワガママを言ってしまった。
「俺以外が翔ちゃんのネクタイ触るの···やだな」
こんなこと言ったら呆れられちゃうかな···
それとも引かれちゃうかな···
でも翔ちゃんは優しく微笑んだ。
「もう誰にも触らせないよ。だから、これからもずっとカズが締めてくれる?」
「うん!」
「カズも俺以外の誰のネクタイも触らないでね」
「うんっ!」
俺のワガママも笑って受け止めてくれて、翔ちゃんて本当に優しいよね。
翔ちゃん以外のやつなんて頼まれたってやりたくないよ。
こんなことしたいって思うの翔ちゃんだけだもん。
翔ちゃんの側にいるのは“しばらく”って約束だけど、いつまでなのかな?
翔ちゃんの言う“ずっと”ってどれくらいかな?
本当にずっとならいいのにな。