第20章 想い届く
俺は振り向くことが出来なくて。
ただ息を止めるようにして、2人の会話に耳をそばだてる。
「今日、一緒に帰らない?」
中丸の誘いに心臓が嫌な音を立てた。
「え…」
急な誘いにカズは戸惑っているようで…
断れ!
断ってくれ!
心の中で強く願うけれど。
「うん…いいよ…」
カズはあっさり頷いてしまった。
ショックを受けて、ぎくしゃくと振り向いた先には、仲良く並ぶカズと中丸の姿。
中丸が何か話しかけて、カズが笑って。
カズが手早く荷物をまとめると、2人並んで教室を出て行った。
しばらく遠ざかっていく背中を真っ白になった頭でただ見つめていたが。
ふいに今しがた見た、中丸の隣に並んで、中丸に笑い掛けるカズの姿が頭の中で再生されて。
“ お前のいた場所、取られるぞ”
同時に、潤に言われた言葉が耳の奥でこだまして。
その瞬間…
いやだ!
カズの隣は誰にも譲れない…!
……ちがう!!譲らない!!
そんな強い感情が膨れ上がって。
無意識に体が動いた。
「翔っ!………っ!」
潤に何かを言われた気がしたが聞き返す余裕もなかった。
教室を飛び出して。
廊下を駆け抜けて、階段を飛ぶように下りて。
靴を履き替えることもしないで昇降口を飛び出すと
「カズ!!」
校門に向かう背中を見つけて、叫ぶようにして呼び止めた。
「…えっ?翔ちゃ……櫻井くん?!」
立ち止まって驚いたように振り向いたカズ。
わざわざ言い直されてまた胸が痛んだけれど、今はそんなの構っていられない。
スピードを落とさないままカズに近付くと、慌てたようにカズも踵を返して走り出そうとする。
逃げないで…っ!
お願いだから…!
必死に手を伸ばして、その腕を掴む。
「好きだ!!」
何も考えられなかった。
ただ叫んでいた。
カズへの想いを。
「………へ?」
カズが目を見開いて固まる。
動きの止まったカズを力任せに引き寄せて抱き締めた。