第20章 想い届く
-Sside-
カズが離れて行ってしまってから、俺の世界には色がない。
俺と世界の間に薄いヴェールが掛かっているみたいに、全てのことがぼんやりしていて。
何をしていても実感が乏しい。
「翔、お前このままでいいのか?」
目の前にいるはずの潤の声も遠く聞こえる。
「このままだと、本当にニノを失うぞ?」
…このままで良いわけなんてない。
カズのいない毎日はさみしくて、真っ暗で。
でもカズから去って行ったんだ。
また拒絶されたらと思うと、声を掛けることもできない。
「何もしなくていいのかよ?何をしたって、ニノとの関係がこれ以上悪くなることなんてないだろ?」
確かに今がドン底だろう。
どうせこんな状況になってしまうのなら、あの時怖気付かずに気持ちを伝えておけば良かったんだろうか。
後悔したって今更すぎるけど。
鈍った頭でそんなことを考えていたが
「ニノ、最近新しい友だちが出来たみたいだぞ。珍しく心を許してる」
続く潤の言葉にものすごい衝撃を受けた。
「お前のいた場所、取られるぞ」
まるで鈍器で殴られたかのように頭がグラグラする。
カズの隣に俺じゃない男が…?
俺としていたようなことをその男と?
朝の待ち合わせから下校までずっと一緒にいて?
時には手を繋いだり、抱き締めたり、涙を拭ったり?
それを、俺は…見てるだけ…?
ドン底の今よりさらに最悪な状況がやってくる…?
心臓がうるさく鳴り始めた、その時…
「二宮くん」
カズを呼ぶ耳慣れない声が聞こえた。
「中丸くん?どしたの?」
少し驚いたようなカズの声も。
中丸…?
中丸が、カズと…?
「噂をすればなんとやら…だな」
動揺する俺なんてお構いなしに、潤がどこか面白そうに呟いた。