第20章 想い届く
このやり取りを智は悲しそうな顔でずっと遠巻きに見ていた。
ニノが1人で教室を出て行っても、目で追うだけで動かない。
いつもの智なら絶対追い掛けるはずなのに。
苦しそうな顔をして、その場に立ち尽くすだけだった。
あの日。
怒鳴っても揺すってもピクリとも動かない翔に早々に見切りをつけて。
雅紀もいるし大丈夫だろうと、俺は智を追い掛けることにした。
ニノと智が走り去った方へ俺も向かいながら、智なら絶対ニノを捕まえてると思ったし、上手いことニノを説得してるんじゃないかって。
そんな甘いことを考えていた。
でも俺が追いついた時には、智は1人で。
それも廊下の片隅に膝を抱えて座り込んでいて。
……なんだ?この状況?
ニノはどこだ?
智がニノを追い掛けもせず、こんな所に1人で蹲ってる意味が分からない。
「智…?」
不審に思って声を掛けたら、智の肩がびくっと揺れた。
「潤…」
そろそろと顔を上げた智は目が真っ赤で。
明らかに泣いていた跡が残ってて。
「なっ…おい!どうしたんだよ?ニノは?」
「ニノ……ふっ…うぅっ…」
ニノの名前を聞くなり、その目から大粒の涙が零れ落ちた。
何一つ現状を理解できないけれど、とりあえず急いで智の横に座ってポロポロと溢れる涙を拭った。