第19章 勘違い
長い長い沈黙の後
「今まで通りには出来ないよ」
ようやく口を開いたカズは何かを決心したような顔をしていた。
俺は一瞬、何を言われたんだか分からなくて。
分かりたくなくて…
呆然とカズの話を聞くことしか出来ない。
「翔ちゃん好きな人がいるんでしょ?…相手は雅紀じゃないのかもしれないけど」
ちらりと雅紀を見る瞳には、まだちょっと疑いの色が残ってる気がした。
「俺、今回のことで気付いたんだ。きっと俺が翔ちゃんの恋を邪魔してたんだよ。だから、もう今まで通りには出来ない。もう、翔ちゃんのそばには居られないよ」
“今まで通りには出来ない”
“そばには居られない”
カズの言葉がナイフのように胸に突き刺さる。
胸が痛くて、うまく息が出来なくて。
言葉が出てこない。
「ずっと翔ちゃんの優しさに甘えててごめんね。今までありがとう」
最後にカズはにっこり綺麗に微笑んだ。
今まで泣きそうな顔をしていたのが嘘みたいな、それは俺が一目惚れした花のような笑顔だった。
そのまま、俺に背を向けて歩き出そうとしたから
「カズ!待って!」
反射的にその手を掴んだ。
カズが足を止めて振り向く。
俺が好きなのはカズだって
好きだから側にいてほしいんだって
言うなら今だと思った。
今伝えないとマズイって頭の中で警鐘が鳴り響いている。
それなのにこの期に及んでも、カズにまっすぐ見つめられたら何も言葉が出てこない。
告白なんかしたら嫌われるんじゃないかって。
そんな考えが消えなくて。
なんとかこの場を乗り切らなきゃと、焦って口を開いても何も言葉にならない。
カズはしばらくそんな俺を見つめて待ってくれたけど、俺が何も言えないでいると寂しそうに小さく笑った。
そっと俺の手を外すと
「バイバイ、翔ちゃん」
呟いて、走り去ってしまった。
「待って!ニノ!」
智くんが慌てて追い掛けて行く。
「翔っ!」
「翔くんっ!」
潤と雅紀に、焦りと怒りの混ざったような声で怒鳴りつけられて。
「何してんだ!今すぐ追いかけろ!」
舌打ちした潤に胸ぐらを掴んで揺すられる。
それでも俺の足は地面に縫い止められたみたいに動かなくて。
現実を受け入れられずに、俺は馬鹿みたいに突っ立っていることしかできなかった。