第19章 勘違い
「今、ニノには会わせられない」
静かな口調だけど、声が固い。
俺の動きを止めるために掴んでいる手にはすごい力が込められていて、腕が痛い。
会わせられないって何で?
目の前の智くんは明らかに怒りのオーラを纏っていた。
いつもの柔らかい穏やかな雰囲気はどこにもなく、初めて見るような怒りに満ちた眼差しで睨まれて、再び足が動かなくなる。
怒ってる…俺に対して…
でも理由が思い当たらない。
智くんがこれほど怒るなんて、一体俺はカズに何をしてしまったんだろう?
智くんの視線はまっすぐ俺に向けられていて、逸らすことも出来ず無言で見つめ合う形になってしまった。
「智…」
潤がそんな智くんを宥めるようにその肩をポンポンと叩くと、智くんの手から力が抜けて、掴まれたままだった腕が解放された。
それでも俺を見る目は険しいままで。
もうカズの家に向かおうとは思えなかった。
「2人に聞きたいことがあるんだ」
潤が少し真剣な顔になって俺と雅紀に向き直る。
「でもここだと目立つから場所を変えよう」
潤の言う通り、ここは通学路だからさっきからうちの生徒がすぐそばをひっきりなしに通っている。
「人に聞かれたら困る話なのか?」
「出来れば聞かれない方がいいと思う」
そんな話になんの心当たりもないが、潤も智くんも真剣な顔をしていて下手なことを言えない空気だ。
「うち、今なら誰もいないから…うち来る?」
おずおずと口を開いたのは雅紀で。
誰にも異論はなく、そのまま雅紀の家へ移動することになった。