第18章 バレンタイン
「え?なに?」
反射的に手を出した智は、とりあえず受け取ったものの不思議そうな顔をしてる。
「あげる。開けてみてよ」
「…うん」
促したら素直に蓋を開けてくれた。
中を見た智の目が大きく見開かれる。
「これ…」
言葉もなく箱の中を凝視してる。
そんな驚かんでも…
いや、まぁ驚くか。
箱の中に入ってるのはチョコレートケーキ。
当然…でもないけど、一応手作り。
「ガトーショコラ。智あまいもん好きだろ?」
なんでもないことみたいに軽い口調で聞いてみれば、智はコクコクと頷く。
「ケーキなんて初めて作ったけど、まずくはないと思うぜ?」
本当は何度も試作したから、ちょっと自信がある。
作るからには智が喜ぶものを…
美味いと思ってもらえるものを作りたくて。
でもそんなことは智に伝える必要はない。
智はじっとケーキを見つめていたけど、顔を上げるとやっと口を開いた。
「これ、バレンタインだから…?」
「そうだよ」
改めて口にされるとちょっと照れる。
ニノをけしかけながらずっと考えてたんだ。
バレンタインだからってニノにだけ頑張らせるのはズルいんじゃねーかなって。
自分だって智のこと好きなくせに、人に言うばっかで何もしないのかよって。
別にまだ告白したいわけじゃないけど、ニノにも言った友チョコくらい俺も渡してもいいんじゃないか…
弁当の延長として考えれば俺から智に何か作ってもそこまで不自然ではない気がするし。
そういう形で自分の気持ちをほんの少し智に渡してもいいかなって。
ニノヘ発した言葉は全部自分に跳ね返ってきて。
それは思っていたより俺の中で大きく響いてた。