第18章 バレンタイン
智はじっと俺の手元を見つめてる。
「それ翔くんにあげるチョコ?」
「…ちがう」
もう渡せないチョコだもん。
「違わないでしょ?せっかく用意したんだから渡そう?」
優しく促されるけど、そんなの無理だよ。
「受け取ってもらえないって分かってるのに?渡したって翔ちゃんを困らせるだけだよ」
「渡す前から決め付けないの。翔くんは絶対受け取ってくれるから」
いつもの智の根拠のない自信。
信じたくなる不思議な力があるけど。
でも、今日一体何人が翔ちゃんにチョコを渡そうとして断られてる?
翔ちゃんは一貫して受け取らない。
誰か分からないけど、好きな人からのチョコだけを待ってる。
それなのに俺のだけ受け取ってもらえるわけないじゃん。
今も翔ちゃんは居ない。
呼び出されて行ってしまった。
今頃きっとまた告白されてる。
今度こそ本命の子かもしれない。
考えただけでぐっと胸が苦しくなる。
違いますように…
翔ちゃんがチョコを受け取りませんように…
自分勝手な願い。
翔ちゃんはきっと好きな人からのチョコを待っているのに。
翔ちゃんの幸せを願えない自分が醜く思えて、また泣きたくなった。
話を変えたくて、クッキーを取り出す。
タッパーを開けて
「良かったらみんなで食べて?」
まだ残ってるクラスメイトにも声を掛けたら、みんなワイワイ集まってきてくれた。
「なに?」
「クッキー?」
「うん、姉ちゃん手伝って一緒に焼いたの。残りもんで悪いけど」
「ニノの手作り?」
潤くんの一声で、みんなが伸ばしかけてた手をピタッと止めた。