第18章 バレンタイン
ーNsideー
翔ちゃんに好きな人がいた。
俺だけがそれを知らなかった。
その事実が胸に刺さって抜けない。
みんなは見てて気付いたんだって。
俺だって誰よりも翔ちゃんのこと見てたつもりだったのに…俺は一体何を見ていたんだろう。
何だかずっと悲しくて。
気を抜いたらまた泣いてしまいそうだった。
でも、そんなこと出来ない。
これ以上みんなに…翔ちゃんに…心配掛けたくない。
翔ちゃんに好きな人がいたって…
恋人が出来たとしたって…
俺が友だちであることは変わらないんだから。
今までと何も違わないだろって、何度も自分に言い聞かせる。
何度も何度も呼び出される翔ちゃんを何でもない顔で送り出して、何でもない顔で迎えて。
キリキリ痛む胸には気付かないフリをして。
笑顔を作って、いつも通りに振る舞う。
それだけのことなのに、それは思ったよりエネルギーが必要で。
1日がやたら長く感じて、放課後には疲れきってしまっていた。
ノロノロと帰り支度をしようとして、紙袋の存在を思い出した。
すっかり忘れてた。
あんなにドキドキしながら準備したのにな。
翔ちゃんのために作ったチョコ…無駄になっちゃった。
紙袋の中をぼんやり見つめていたら、じわりと目に涙が溜まって。
慌てて目をギュッと瞑った。
そのままじっと俯いてたら
「ニノ」
優しく呼び掛けられて。
目を開けたら、いつの間にか智が隣にいた。