第18章 バレンタイン
ーOsideー
自分で行くように促したのに、ニノは泣きそうな顔で翔くんを見送ってて。
「そんな顔するくらいなら行かないでって言えばいいのに」
思わずそう言ってしまった。
だって、今日は翔くんが呼び出される度にこんな顔してて。
戻ってきた翔くんがチョコを受け取っていないことを確認しては安堵している。
気持ちが張り詰めているのが分かって、見てるだけの俺まで辛い。
ニノが行かないでほしいって言えば翔くんは絶対行かないよ。
「そんなこと言えるわけないじゃん」
「でも…」
「俺にはそんなこと言う権利なんてないもん」
ニノは力なく首を振ると、手に持ってたパンをモソモソと食べ始めた。
でもうまく飲み込めないみたいで、いつまでも口の中の一欠片がなくならなくて。
最後はジュースで無理やり流し込んで、それ以上はもう何を言っても食べてくれなかった。
「ただいま、カズ」
「おかえり、翔ちゃん」
翔くんは本当にすぐ戻ってきて。
当然手ぶらだったんだけど、それを見てまたニノはホッと胸を撫で下ろしてた。
「ちゃんとご飯食べた?」
「うん」
どんなに笑顔を作っていても、心の中では翔くんの想い人がいつ現れるのかって怯えてるのが分かるから可哀想で。
それはニノなんだから、絶対に現れることなんかないのに…
言っちゃなんだけど、こうやって傷付いてるのも怯えてるのも全部無駄なんだよ…
「ねぇ、潤…どうしたらいいのかな…」
並んで寄り添うニノたちから少しだけ距離を取って、小声で潤に問い掛ける。
「うーん…」
潤は腕を組みながら唸って。
難しい顔をした。