第18章 バレンタイン
みんな食べ終わったら、カズは一口も食べていないパンをしまおうとした。
「カズ、ダメだよ」
その手を止めて、ちょっとでいいから食べさせようとしたら
「櫻井先輩」
中等部の子に声を掛けられた。
「少しだけ、お時間いいですか?」
正直全然よくない。
こんな状態のカズの側を離れたくない。
でも緊張で震える指先が目に入ってしまったら、無下にも出来なくて。
返事を躊躇っていたら
「…翔ちゃん」
カズが行ってあげてと目で訴えてきた。
カズに行くように促されるのは内心とても複雑な気持ちになる。
今日呼び出されることは、イコールどういうことなのか…カズが分かってないとは思えないから。
カズは俺に特別な感情を持っていないという現実を突きつけられてる気がして悲しくなる。
でもそんな感情を表に出すわけにはいかない。
悲しさを隠して、立ち上がった。
「うん…行ってくる。カズ、ちょっとでいいから食べるんだよ」
「分かった」
ニコッと笑う顔は笑顔なのにやっぱり泣きそうに見えて。
理由は分からないけど、俺以上にカズのが悲しそうで。
「すぐ戻るから」
カズの頭を撫でてから、離れがたい気持ちを無理やり抑えてその場を離れた。
誰にどんな想いを伝えられても、俺の答えは変わらない。
俺が欲しいものは1つだけ。
カズから以外はいらない。
それでも、自分の気持ちを伝えることがどれだけ勇気のいることか、今の俺には分かるから。
去年みたいに断るのが面倒だからという理由だけで受け取るなんて、そんな無責任なことはもう出来ない。
その気持ちに応えることは出来なくても、その誠意には誠意をもって対応したいと思うんだ。