第18章 バレンタイン
ーSsideー
カズの様子がおかしい。
ついさっきまで普通だったのに、学校に着いた辺りから明らかに元気がなくなった。
「カズ、どうしたの?」
寒い中待たせてしまったから体調が悪くなったかと心配になる。
駅で女の子たちに捕まって、急いだけど少し遅くなってしまったから。
校門前でも時間取られたし。
カズの言う通り先に校舎に入っててもらえば良かったかな…
でも朝の人気の少ない校内に、カズを1人にしたくなかったんだよな。
「体調悪い?」
「ううん…だいじょぶ…」
カズは力なく首を振るけど、その声にも力がない。
額を触ってみるけど熱はなさそうだ。
でも顔色が良くない。
青白く見える頰に手を当てて見たら、驚くほど冷たくて。
「カズ…」
「ほんとに大丈夫だから…」
カズは、心配を隠せない俺を安心させるように笑ってみせたけど。
それは儚くて今にも消えそうな笑顔で。
本当にどうしたというんだろう。
今日はバレンタインで。
実はちょっと期待してた。
少し前にカズに“チョコ好き?”とか突然聞かれて。
内心ドキッとしたけど、なんでもない顔で好きだって答えた。
季節的に街中チョコだらけだから、単純に聞いてみただけかもしれないけど。いや、多分そうなんだけど。
それでも、もしかして…なんて、淡い期待を抱いてしまった。
そうしたら!
今朝、待ち合わせ場所にいたカズが小さめの紙袋を持ってて。
今日は荷物が多くなるような授業はないし。
ますます期待が高まって、もちろん違う可能性もあるから期待しすぎるなよと自分に言い聞かせるんだけど。
どうしても期待してしまう自分がいた。
その紙袋は今はカズの机の横に掛けられている。
学校に着いても、カズが中身を取り出すことはなかった。
正直とても気になるけど、今はそれよりもカズが心配だ。
話し掛ければ答えてくれるし、笑顔も見せてくれる。
でも、どこかいつもと違う。
やっぱり体調が悪いとしか思えない。