第18章 バレンタイン
「去年は受け取ってくれたじゃないですか」
「お返しなんていりません」
「受け取ってもらえるだけでいいんです」
女の子たちに必死に懇願されて、翔ちゃんはますます困った顔になったけど。
「ごめん」
返事は変わらなかった。
「どうしてですか?」
「どうして今年は…」
悲痛な声に俺の胸まで痛くなる。
だって嫌だけど。
翔ちゃんが女の子からチョコ受け取るのなんて見たくないけど。
本音を言えば翔ちゃんが受け取らなくてちょっとホッとしてるけど。
でもこの子たちだって翔ちゃんのことを想ってドキドキしながらチョコを準備したんだ。
俺も同じだから…
受け取ってもらえない悲しさは分かるから…
翔ちゃんなんで断るんだろ?
去年はみんな受け取ったんでしょ?
なんだか複雑な気持ちでいたら
「好きな人がいるんだ。だから、今年はその人から以外は受け取らないって決めてた」
………っっっ!!?
翔ちゃんの口から突然出た言葉に、頭から冷水をぶっかけられたみたいになった。
それはものすごい衝撃で。
息が止まりそう…
「ごめんね」
最後にもう一度女の子たちに謝った翔ちゃんに、行こうって背中を押された。
そのまま、翔ちゃんに押されるまま歩くけど、足にうまく力が入らなくてフラフラしてる。
好きな人…
翔ちゃん好きな人いたんだ…
たった今知った事実がぐるぐると巡る。
頭がうまく働かない。
分かるのは、俺は完全に失恋したってことと。
俺のチョコも受け取ってはもらえないってこと。
それだけ。
もう渡すことの出来ないチョコの入った紙袋を握り締めて、泣きそうになるのを必死に堪えた。