第1章 恋に落ちる
「まぁ何でもいいけどさ。二宮のこと本気で狙ってるやつ結構いるみたいよ?」
「···知ってる」
そんなの俺も知っていた。
二宮くんの名前に敏感になっているからか嫌でも耳に入ってくる。
それに、あれだけ可愛いんだから本気になるやつだっていて当たり前だと思う。
「噂だと5組の丸山とか、あと···」
潤が何人か名前をあげていく。
潤の口から具体的な名前を聞いたら、急に現実味が増して胸がザワザワした。
最初に名前のあがった丸山の顔を思い浮かべてみる。
深い付き合いがあるわけじゃないけど、丸山も持ち上がり組だからもちろん知っている。
ちょっとお調子者なところはあるが温厚でいいやつだ。
今までソッチ系だなんて一度も聞いたことないけど。
「ま、本当かは分からないけど。でもそういう噂があるのは本当」
俺の心を読んだかのようなタイミングで潤が続ける。
「二宮って何となく話し掛けにくい雰囲気あるから、他のやつらも翔と似たり寄ったりだけど」
そこまで言ったところで、チャイムが鳴った。
潤が自分の席に戻っていく。
「翔がいいなら見てるだけでもいいけどさ。きっと今のままだと何かあったときに後悔するよ」
最後に小さく呟いた言葉は、重くて実感がこもっているように聞こえた。
潤は何か後悔したことがあるのかな。
その言葉は、俺の胸に残った。