第1章 恋に落ちる
見ているだけだから、俺が知っていることは少ない。
それでも、例えば左利きなこととか。
意外と運動神経が良いこととか。
新しいことを発見する度に嬉しくなる。
笑顔が見れるだけでドキドキする。
話したこともないのに、毎日どんどん好きになる。
「また見てる」
ぼんやり二宮くんに見惚れていたら、いつの間にか隣に潤がいた。
「そんなに気になるなら、見てるだけじゃなくて話し掛けに行けばいいのに」
呆れたように笑われる。
何でだか潤には俺が二宮くんを好きなことが、当たり前のようにバレていた。
最初は、男を好きになるなんて気持ち悪いと引かれるんじゃないかと心配した。
でも潤はそんな小さい男ではなかった。
俺の気持ちを知っても態度を変えることなく親友でいてくれてる。
それどころか、応援してくれているようだ。
いいやつだよな、本当に。
「それが出来ないから見てるんだよ」
「ははっ!」
つい拗ねたような口調になった俺に、潤は今度は面白そうに笑った。
「学園の王子さまにも出来ないことがあったとはね」
「王子って言うな...」
王子と言うのは俺につけられたあだ名で。
最初は近くの女子校の子たちがそう呼び出したらしいが、いつの間にか学校内にまで広まっていた。
俺は中学入学当時は豆粒みたいに小さかった。
それが身長が伸びるにつれ女の子たちから声を掛けられるようになった。
自慢じゃないがモテる方だと思う。
告白もよくされる。
でも一度も応えたことはない。
決して嬉しくないわけではないが、正直よく知らない子と付き合う気にはならず、申し訳ないが全部断っていた。
同じように豆粒で女の子みたいだった潤も、3年間で凛々しい男前になった。
やっぱりよく告白されている。
俺と違うのは断らないこと。
常に誰かしらと付き合っているようだ。
それも複数と。
遊びとしか思えないが、余計なお世話な気がして口に出したことはない。
そもそも、潤とあまりそういう話をしたことないんだよな。