第14章 誕生祝い to SATOSHI
「じゃあ行くか」
「うん」
智は言った通り、水槽を1つ1つゆっくり覗き込んでいる。
見たものを目と心に焼き付けているような智を邪魔したくなくて。
俺からは話し掛けないようにしていたから、沈黙の時間の方が多かったけど。
でも智と並んで同じものを見ているだけで俺は幸せで。
それにこの沈黙も智となら苦じゃない。
ふと、俺の後ろで子どもが見えにくそうにしてるのが目に入って。
場所を譲ってやろうと動いたら、くいっと袖が引っ張られた。
何かと思って見たら、智が俺の上着の袖口あたりをきゅっと握ってた。
「あっ…ごめんっ…」
自分でやったことに自分で驚いたみたいな顔をした智は、慌てたように謝ったけど、その手を離すことはしなくて。
「…その、どこ行くの?」
そのまま上目遣いで伺うように聞かれて、キュンときた。
もしかして俺がどっか行っちゃうと思った?
それを嫌だと思ってくれたのか?
「どこも行かないよ。子どもに場所譲ろうとしただけ」
「えっ!?…そ、そっか…ごめん…」
嬉しくて少し笑っちゃいながら答えたら、智はカーッと真っ赤になった。
焦って手を離そうとするから、袖を握る智の手を上からそっと押さえる。
「離さないでよ。人多いから、はぐれないようにそのまま掴んでてくれる?」
「………うん///」
お願いしてみたら智は首まで赤くなったけど、離しかけてた手でもう一度俺の服をぎゅっと握ってくれた。
「先、進むか」
「うん///」
なんでもない顔を作ってまた歩き出すけど、内心はけっこうドキドキしてた。
直接は触れ合っていないのにな。
もしかしたら普通に手を繋ぐより恥ずかしいかもしれない。
まだ赤い顔をして、それでも手を離さないでいてくれる智は最強に可愛くて。
愛しくてたまらなかった。