第13章 体育祭
まるで時が止まってしまったみたいな中、潤だけがスローモーションで動いてる。
軽く伏せられた目元の長い睫毛がはっきり見えて。
掴まれた手の熱さと、触れた唇の感触だけ、やたらリアルに感じられた。
カーッと顔が赤くなる。
よほど間の抜けた顔をしていたのか、手を離した潤は俺を見るなりプッと吹き出した。
途端に止まっていた時間が動き出す。
「なっ……ばっ……」
何すんだよ!ばかじゃないの!
そう言ってやりたいのに、口がパクパクするばかりで言葉にならない。
恥ずかしさとからかわれた悔しさとで、握り締めた拳がぷるぷる震える。
「ぶはっ、ごめんごめん!そんな怒るなよ」
笑いながら軽く謝ってくる潤に腹が立つ。
簡単にこんなことするなよな!
“いいな”って思ったのは、2人が幸せそうなことであって!
決してキスが羨ましいとか俺もしてほしいとか、そういうんじゃなかったんだから!!
潤だってカッコいいんだから。
おふざけだって絵になるんだからやめてよ。
潤も王子さまに見えちゃったじゃん。
俺までお姫さま気分になっちゃったじゃん。
心臓が止まったらどうしてくれるんだ。
潤は俺のことからかっただけのつもりでもさ。
俺は潤のこと好きなんだから…
冗談でもこんな心を乱すようなことしないでよ。
勘違いしそうになっちゃうから、やめてよ。
なかなか笑いがおさまらない潤を睨みながら、ちょっとだけ切ない気持ちになった。