第12章 文化祭
ただ…
「お!櫻井!寄ってけよ!…あれ?隣は噂の二宮くんか?可愛いなぁ♡たこ焼き食べる?」
「櫻井先輩!寄ってってくださいよ〜!…あ、噂の二宮先輩ですか?本当に可愛いですね〜♡良かったらチョコバナナどうぞ!」
ちょっと歩くと先輩後輩問わず、すぐ知り合いに捕まる。
それ自体は別にいいんだけど、みんな俺に用があると言うよりは、隣のカズに興味津々で。
みんな当然のようにカズの名前も顔も知ってるし。
しかもいちいち名前の前につく“噂の”ってなんなんだよ!?
学校中、知らないやつがいないくらい可愛くて有名ってことか!?
確かに、人見知りを発揮して俺の背中に隠れる姿も、俺の袖をきゅっと掴む小さい手も、めちゃくちゃ可愛いけれど。
その可愛さは俺だけが知ってればいいのに!
声を掛けてくるやつらは、ことごとくカズの可愛さにデレデレになってしまう。
「これ美味しいから食べてよ」
「え…あの、じゃあお金…」
「いらないいらない!タダであげちゃう」
「これ食べてください〜」
「えっと…でも…お代は…」
「そんなのいりませんよ!」
みんなに半ば強引に食べ物を押し付けられて。
代金も受け取ってもらえない。
「はい、どうぞ」
「…ありがと」
またカズが可愛くはにかみながらお礼を言っちゃうもんだから、ますます相手がデレるループ。
ああ、またカズに惚れるやつが増えてしまう。
内心気が気じゃない。
「ほら!カズ、もう行こう!」
「うん」
挨拶もそこそこに、カズを引っ張ってその場を離れるけど
「あ、櫻井!…あ、二宮くんも一緒じゃん!」
またすぐに捕まってしまう。
今日ばかりは無駄に知人の多い自分を恨むぜ。