第12章 文化祭
「ありがとう、潤」
情けない顔でお礼を言う翔にもイラッとする。
「お前もどうせ断るんだから、こんな騒ぎになる前にさっさと断れよ!」
「うん、ごめん…」
「ニノが泣きそうな顔して1人で出ていこうとしてたぞ。斗真が気付いて止めてくれたんだ。今は智が引き留めてる」
ニノのことは翔にしか聞こえないように、耳元で小声で伝えると、途端に翔の顔色が変わった。
「海の時の二の舞になるところだったぜ?」
「ごめん、ありがとう」
情けなかった顔がシャンとする。
「感謝してくれ」
冗談めかして軽くどついたら、翔が笑った。
もう大丈夫だろう。
「ごめん。俺、友だちと約束してるから、君たちとはまわらない。迷惑だから付いてきたりして邪魔しないでね」
翔は席に着いた女子たちにはっきり告げた。
にっこり笑った顔は怖いくらい綺麗で、有無を言わせない迫力がある。
女子たちは押し黙ったままコクコクと頷いた。
最初から今くらいの態度取れよな…と思うけど、まぁこれが翔だから仕方ないか。
今回はニノが消える前に間に合って良かった。
「早く行ってやれ」
「ああ、ありがとな」
裏を指せば、爽やかな笑顔が返ってくる。
「お疲れ。智にこっち来るように伝えて」
「了解!斗真もありがとう」
翔は様子を見ていた斗真に声を掛けて一緒に裏に入って行った。
入れ違いにすぐに智が出て来る。
智が現れるとその場の空気が一気に華やいだ気がした。
その可愛らしさに客から一斉に感嘆のため息が漏れたが、智は気付いた様子はない。
これだけの人数の視線を一身に集めてるのに、ここまで鈍感でいられるって、ある意味才能だな。