第12章 文化祭
ーMsideー
「あれあれ」
斗真が指差す方には女子の群れ。
店中に響く黄色い声。
たぶんその中心に翔がいるんだろう。
「俺は…友だちと…」
なんて言ってるのが聞こえてくるけど、力のないその声はほとんど女子のキンキン声にかき消されてる。
深い深いため息が溢れた。
またこのパターンか。
女子に迫られて断りきれない翔と、その状況に耐えられなくて逃げようとするニノ。
翔のやつ全然学習しないな。
「開店直後からすごくてさ〜。ニノはずっと泣きそうな顔してるしさ、下手なこと言えないから裏はずっと通夜みたいな空気だったよ」
「それ翔は知ってんの?」
「裏来る度にニノに声掛けてはいたけど、ニノも翔には作り笑顔貼り付けてたからな…あの慌ただしさの中で翔が気付いてたとは思えないかな」
斗真の説明に、その状況が目に浮かぶ。
本当しょうがねぇなぁ。
もう一度ため息を吐いてから、翔を中心にしてる人の群れに近付いた。
足音が荒くなるのは仕方ないと思う。
「おい、翔!交代だ!」
抑えたつもりの声は低く、それでもある程度の大きさになった。
声に含まれる苛立ちを感じ取ったのか、女子たちがビクッとして静かになったから、人垣をかき分けて中から翔を引っ張り出した。
「あんたらおとなしく座ってられねーの?最低限のマナーも守れないなら帰れ。他の客の迷惑だから」
立ち尽くしていた女子たちをギロっと睨んだら、全員しゅんと項垂れた。
メイド姿じゃ迫力もないだろうと思ったが、それなりに効果はあったようだ。
モゴモゴ決まり悪そうに謝りながら、各々席に戻っていった。