第12章 文化祭
でも交代の時間になっても翔ちゃんは戻ってこなくて。
少し浮上したはずの気持ちはすぐに沈んでいく。
すごく嫌だけど、またカーテンから表をそっと覗いてみた。
そこには想像通りの光景。
翔ちゃんは完全に女の子たちに取り囲まれて動けなくなってた。
輪の中心にいるはずの翔ちゃんはほとんど見えない。
「櫻井くん、この後休憩なんでしょ?」
「私たちと一緒にまわらない?」
「ううん!私たちと!」
みんな翔ちゃんと一緒に文化祭をまわりたいって騒いでて。
誰がその権利を勝ち取るかバチバチしてる。
翔ちゃんの声は全然聞こえてこない。
翔ちゃんがうんって言ってたらどうしよう…
でも断らないってことは、俺より女の子とまわりたいって思ってるのかも。
俺なんかより可愛い女の子と一緒のが楽しいよね。
このままここにいたら泣きそうだ。
もう逃げちゃおう。
「お疲れさま…休憩行ってくるね…」
みんなに声を掛けて、ドアに向かったら
「待って!翔は?一緒にまわるんだろ?」
まだ残ってた斗真に腕を掴まれた。
「翔ちゃんはあの子たちとまわるんじゃないかな」
泣きそうなのを隠してニコッと笑ったのに、斗真は苦い顔をした。
「そんなわけないだろ!翔が泣くぞ!」
「翔ちゃんが泣くわけないでしょ…いいから離して」
なんで翔ちゃんが泣くのよ。
このままじゃ泣くのは俺だってば。
斗真の手を外そうとするけど、その手は全然ゆるまない。
「何騒いでんだ?」
「ニノ、どうしたの?」
斗真と押し問答をしてたら、メイドになった智と潤くんが心配そうに近付いてきた。
2人ともお化粧してすごく可愛くなってる。
きっと2人も翔ちゃんみたいにキャーキャー言われるんだろうな。