第12章 文化祭
みんなから謎の励ましを受けて、今度こそちゃんと仕事に戻った。
もう何も見ないし、聞かないし、何も考えない。
ただ黙々と作業に集中しよう。
そう思うのに…
裏にいても黄色い声は聞こえてくる。
翔ちゃんを呼ぶ甘く媚びるような声に、どうしても気持ちがざわついてしまう。
明日は耳栓持って来ようかな…なんて本気で考えるけど
「ニノ、次はこれお願い!」
「はーい…」
注文も聞こえなくなっちゃうからダメか。
聞きたくないものだけ聞こえなくなる道具があればいいのに。
そんなことばかり考える俺に
「カズ、どうしたの?疲れちゃった?」
「翔ちゃん…」
注文の品を取りに来た翔ちゃんが声を掛けてくれる。
「ううん、だいじょぶ」
「本当?無理しちゃダメだよ?」
心配かけないように笑顔を作ったら、翔ちゃんは頭をポンポン撫でてくれてから、すぐに慌ただしく出て行った。
翔ちゃんは裏に来るたびに、俺のこと気にかけてくれる。
やっぱり耳栓はダメだな。
翔ちゃんの声まで聞こえなくなっちゃうの困るもん。
表で女の子に囲まれてる翔ちゃんはすごく遠く感じるから。
ちょっとだけでも翔ちゃんと顔を合わせて、一言二言でも言葉を交わせると、少し安心する。
何回も短いやり取りを繰り返して
「あとちょっとだね。交代したら一緒にまわろうね」
「うん♡」
もうすぐ交代の時間になった。
休憩に入れば、このモヤモヤの原因から解放される。
翔ちゃんと2人で文化祭見て回るんだもん。
翔ちゃんを独り占めしちゃうんだもん。
時計とにらめっこしながら、沈んでいた心が浮き上がってくるのを感じた。