第12章 文化祭
カズの可愛さに流されて変なことを口走らないようにぐっと唇を噛み締めていたら
「翔ちゃん怒ってる?何かあった?大丈夫?」
カズの声音が心配そうなものに変わって、慌てて笑顔を作った。
「大丈夫、何もないよ。怒ってもない」
ちょっと嫉妬してしまっただけで、怒ってはいない。
「いや、めちゃくちゃ怒ってただろうよ」
「睨み殺されそうだったよな」
斗真たちのヒソヒソ声が聞こえて、もう一度睨むと、わざとらしく黙り込んだ。
幸いカズには聞こえなかったようだ。
「そっか…ならいいんだけど…」
安心したようににっこり笑うカズは、頰はピンクだし、目はうるうるで。
その可愛い顔のままじっと見つめられてドキドキしてしまう。
カズは俺を見つめたまま口をむにむにしていて。
何か言いたそうだ。
なんだろう?
何か聞きにくいことなのかな?
「カズ、どうしたの?」
「あのね…あの…なんで…」
こちらから聞いてみたら、やっと口を開いてくれたけど、具体的な言葉はなくて。
“なんで”って何がだろう?
残念ながらカズが何を言いたいのか分からない。
分かるのは、ただただカズが可愛いってことだけ。
首を捻っていたら、カズが恥ずかしそうにそっと俺の腕に触れて。
それでやっと分かった。
なんで突然抱き締められたのか理由を聞きたいんだ。
カズにしてみたら、話し合い中に突然別チームの俺が現れて、しかも無言でいきなり抱き締められて…そんなの疑問しかないよな。
嫌がってはなさそうだけど、そりゃ不思議だろう。
でも…
クラスメイトにまでヤキモチ妬いたなんて…
カズを誰にも触れさせたくないって思ってるなんて…
そんなこと言えないから。
「カズが隣にいなくてさみしかったんだ」
カズに伝えられる言葉だけ口にした。
これだって嘘じゃない。
本当のことだ。