第12章 文化祭
「カズ···」
もう一度溢れる涙を拭ってやると
「だって、さっき何も言ってくれなかった」
カズが小さな声で不満を口にした。
ちょっと拗ねたみたいな口調が可愛い。
「ごめん···カズが可愛すぎて言葉にならなかったんだよ。妖精が現れたのかと思うくらい可愛いんだもん」
「早く着替えろって」
「ごめん···だってこんな天使みたいに可愛いカズを他の誰にも見せたくなかったから」
ひたすら謝りつつも、言い訳はさせてもらう。
カズの女装を変だと思ってるなんて、そんな誤解はしっかり解いておきたい。
「本当だよ?可愛すぎて誰にも見せたくない。カズを独り占めして閉じ込めておきたいくらい可愛い」
言葉を重ねるにつれて、恥ずかしいのかカズの頬がピンクに染まっていく。
涙でうるうるの瞳と相まって、可愛すぎて心臓が痛い。
「こんな可愛い姿見せたら絶対また変なやつに目をつけられちゃう…もう心配で気が気じゃないよ」
心からのため息をついたら、カズがくすっと笑った。
「俺のこと可愛いなんて言うの翔ちゃんだけだよ」
「そんなことないよ」
カズを見た大半の人間は可愛いと思うはずだ。
「そんなことあるの。でも翔ちゃんだけでいい」
「え?」
「翔ちゃんだけでいいの」
カズは俺の胸に顔を埋めて呟いた。
表情も見えないし、どんなつもりで言ったのかは分からない。
分からないけど…
分からないからこそ、勝手に良い方に受け取らせてもらうことにしよう。
カズが動かないから、俺もすごく幸せな気持ちでそのまま抱き締め続けた。