第12章 文化祭
智くんに押されてちょっとよろけてしまう。
見かけによらず意外と力が強いんだな…って感心してしまうけど、今はそんなことよりカズだよ。
そっとカーテンの中に入ると、こちらに背を向けてカズがポツンと立っていた。
力なく項垂れて、細い肩は少し震えていて。
その頼りなげな後ろ姿に、なんて声を掛けるか躊躇っていたら
「智、ファスナー下ろしてくれる?」
智くんと入れ替わったことに気付いていなかったらしいカズが振り向いた。
そこに居たのが智くんじゃなかったことに驚いて目を見開く。
その弾みで目尻から雫が一粒こぼれ落ちて。
その涙を見た瞬間、胸がぎゅっとなった。
カズを泣かせてしまうなんて…
堪らなくなってカズを力いっぱい抱き締める。
「えっ?翔ちゃん?なに?なんで?智は?」
カズは状況が分からないのか腕の中でアワアワしていたけど
「ごめん···泣かないで···」
耳元で囁いたらおとなしくなった。
少しだけ体を離して頬の涙の跡を拭ったら、カズの目に新たな涙が浮かんだ。
カズは両手を突っ張って俺から離れようとする。
「ごめんね、こんな変な格好見せて···すぐ着替えるから···」
悲しそうに顔を背けるから、もう一度ぎゅうっと抱き締めた。
「変じゃないよ。すごく、すごく可愛い」
「···無理しなくていいよ」
カズの声が硬い。
俺の言うことを信じていないのは明らかで。
「無理なんかしてない。本当にすごく可愛いよ」
無理やりカズの顔を覗き込んだら、涙がポロポロ溢れていた。