第10章 夏休み4
『全然ワガママなんかじゃないよ。俺も一緒だし』
「一緒?」
『こっちで何をしてても、何を見ても、カズと一緒にやりたかったな、カズと一緒に見たかったなって···何度も何度も思ってるよ』
「翔ちゃんも?そう思ってくれてるの?」
『うん。そればっかり』
「翔ちゃん···」
ニノの目がウルウル潤む。
でもこの涙は悲しい涙じゃないね。
『早くカズに会いたいよ』
「俺も翔ちゃんに会いたい」
ビデオ通話だから、画面が見えなくても2人の会話は周りに丸聞こえで。
「うぅ、甘すぎる」
「聞いてるだけなのに恥ずかしい」
「体がムズムズする」
甘い甘いやり取りが嫌でも耳に入ってしまうバスケ部員たちは、真っ赤な顔して身悶えてる。
『明日の飛行機で帰るから。着くのは明後日になっちゃうけど···帰ったらすぐ会いに行く』
「うん、待ってる」
翔くんの言葉にニノが本当に嬉しそうに笑った。
花が咲いたような綺麗な笑顔。
ニノにこんな顔させられるのは翔くんだけだ。
その後もしばらく翔くんとお喋りしたニノは、電話を切ったときにはすっかり元気を取り戻していた。
こんな風に恋愛感情に振り回されて一喜一憂するなんて、ちょっと前のニノなら想像もつかなかったし。
単純に疲れないんだろうかと心配にもなる。
でもあんな幸せそうに笑うニノを見ちゃうとなにも言えないよね。
俺はただニノが幸せでいてくれることを願う。