第10章 夏休み4
翌日は約束通りカズの家へお邪魔した。
前もってご家族はいないと聞いていたから緊張していないつもりだったけれど、やっぱり少しドキドキする。
部屋に通されて、ちょっと待っててって言われて。
1人残されると、初めて入るカズの部屋にキョロキョロしてしまう。
昨日のカズの気持ちがよく分かるな。
俺の部屋と違って、ものの少ない部屋は綺麗に整頓されている。
ベッドの上には見覚えのあるミッキーとミニーが並んでいた。
シンプルな部屋の中でひときわ目につくぬいぐるみたち。
もしかして一緒に寝てるのかな?
思わず想像して、あまりの可愛らしさに鼻血が出るかと思った。
反射的に鼻を押さえていたら、ペットボトルとお菓子を抱えたカズが戻ってきた。
「お待たせ···どうかしたの?」
怪訝そうな顔をされて、慌てて手を離す。
「何でもないよ。飾ってくれてて嬉しいなって思って見てただけ」
ぬいぐるみを指差すと
「だって宝物だもん」
カズは照れたようにはにかんだ。
ぬいぐるみが宝物だなんて!
可愛すぎるだろう!
カズは手に持っていた飲み物たちを置くと、ぬいぐるみをぎゅっと抱き締める。
その可愛さの破壊力たるや···!!
可愛すぎて倒れそう。
「翔ちゃん?」
あまりの可愛さに言葉を失っていたら、黙り込んだ俺に心配そうにカズが声を掛ける。
ぬいぐるみ抱えたまま上目遣いとかヤメテ!
抱き締めたくなっちゃうから!
「さ、今日は何から始める?」
「えっとね~」
無理やりカズから視線を外して話を変える。
多少不自然だった気もするが、カズは気にした様子もなくぬいぐるみを再びベッドに並べると宿題を手に取る。
でもぬいぐるみを置いたとき、その頭をなでなでしていて。
顔に笑顔を貼り付けたまま、心の中だけで身悶える。
ダメだ、今日もカズはめちゃくちゃ可愛い。
うっかり挙動不審にならないようにもっと気を引き締めないといけないな。