第10章 夏休み4
カズに不審がられないように、今日も集中して宿題を進める。
「終わりが見えてきたね」
キリのいいところで一休みしてたら、うーんと伸びをしながらカズが嬉しそうに言った。
確かに毎日かなり真面目に取り組んだ結果、まだ夏休みは半分以上残っているのにカズの言う通り終わりが見えていた。
「翔ちゃん旅行に宿題持ってくの?」
「この分なら余裕そうだから持っていかないつもりだよ」
そこまでして頑張る必要はないだろう。
「じゃあ俺も翔ちゃんがいない間はお休みしようっと」
ニコッと笑ってカズはそう言うけど
「え?進めててもいいよ?なんなら終わらせちゃっても···」
俺のせいでカズのペースを崩すのは申し訳ないと思って。
ついそう言ったら
「だって翔ちゃんと一緒にしたいんだもん」
カズは拗ねたように口を尖らせた。
なにそれ!可愛い!!
その可愛いセリフと表情にハートを撃ち抜かれていたら
「翔ちゃんは俺と勉強するの飽きちゃった?もうやだ?もう···」
カズの瞳がウルウルと潤み出して。
拗ねたような声音だったのが少しずつ悲しそうな色を帯びてくる。
「そんなわけない!」
焦って思わずカズがまだ何か言い掛けていたのに強い口調でさえぎってしまった。
だってカズと2人きりで過ごせるこの時間を何よりも幸せだと思ってるのに。
飽きるどころか、このままだと宿題が早々に終わっちゃうから、その後はどんな口実でカズを誘えばいいのかと今から悩んでいるというのに。
誤解で泣かせるわけにはいかない。
でもうっかり大きくなってしまった声に、カズがびっくりした顔で固まってしまったから、慌ててその頭を撫でる。
「俺だってカズと一緒にしたいよ。だから、その···カズがいいなら、宿題進めないで待っててほしい」
「本当?待ってていいの?」
頭に俺の手を乗せたまま上目遣いで俺を伺うカズはめちゃくちゃ可愛い。
「待っててくれたら嬉しいよ」
「うん。待ってる」
ふわりと嬉しそうに微笑んだカズが可愛くて愛しくて。
無意識に抱き締めそうになって慌てて手を離す。
「出発までは今まで通り進めようね。明日はどうしようか?またうちに来る?」
「いいの?あ、じゃあ交代でお互いの家を行きっこするのはどう?」
「いいね」
旅行まで毎日会える。
カズの提案が嬉しくてたまらなかった。