第10章 夏休み4
ーSsideー
8月に入ったら学校の図書館の開館日がグッと減った。
夏休みだから仕方ないんだけど。
次に開くのはお盆明け。
ただでさえ家族旅行の1週間はカズに会えないんだから、それ以外の日は出来たら会いたい。
だから勇気を出して、良かったらうちで勉強しないかと誘ってみた。
カズは快諾してくれたんだけど。
友だちを家に呼ぶなんて久しぶりだし、ましてやそれがカズだから妙に緊張して。
片付けが苦手でいつも雑然としている部屋を必死に掃除してたら、珍しいことしてるって母親に変に勘繰られた。
勘繰られたって、本当に友だちが来るだけだから別にどうってことないんだけど。
ちょっと動揺してしまった俺を母は面白そうに見ていた。
「お邪魔します」
初めてうちに来たカズは少し緊張したような顔をしていた。
「親は仕事だし、弟は保育園、妹は友だちと遊びに行ってる。誰もいないから気楽にしてね」
「そうなんだ」
リラックスしてほしくてそう言うと、目に見えてカズの強ばりが解けた。
俺の部屋に入ると物珍しそうにキョロキョロしてて、その様子が可愛くてつい頬が緩む。
「飲み物取ってくるから適当に座っててね」
「うん」
飲み物を持って部屋へ戻ると、カズはクッションを抱えてちんまり座っていて
「おかえり」
可愛く見上げて迎えてくれた。
······っっっ!!!可愛すぎるっ!!!
「翔ちゃん?」
あまりの可愛さに感動して言葉の出ない俺に、カズが不思議そうに声を掛ける。
小首を傾げたその仕草がまた可愛らしい。
「あ、ただいま。麦茶で大丈夫?」
「うん。ありがとう」
慌てて何でもない風を装って、カズにコップを渡す。
にこっと笑って両手で受け取るのがまた可愛くて···
もうカズが何をしても、いや何もしてなくても、可愛いとしか思えない俺。
とりあえず落ち着け!
カズにバレるぞ!
カズに気付かれないように小さく深呼吸する。
でも自分の部屋にカズがいる。
その初めての光景はまるで夢みたいに幸せで。
深呼吸ぐらいじゃ、とても落ち着けない。
せめてバレないようにと、浮かれる気持ちを隠して必死に宿題に集中するフリをした。