第10章 夏休み4
「智は可愛い。すごく可愛い。誰よりも可愛···」
「だーっ!もうっ!分かったからやめろ!!」
叫ぶように遮った智の顔は火でも吹きそうなくらい真っ赤で。
「分かった?本当に?ちゃんと気を付ける?」
「分かったよ···そんなやつ居ないと思うけど···」
まだそんなこと言うからじろりと睨むと
「本当に気を付けるから!」
俺が口を開く前にと焦って続けた。
「万が一なにかあったとしても、俺護身術習ってるし。そこそこ強いから大丈夫!」
「油断しないで本当に気を付けろよ」
「うん!」
まぁ、実際いきなり襲ってくるようなやつはそうそう居ないだろうし。
頭の片隅ででも、そういうことが起こりうるかもしれないと思っているだけでも違うだろう。
とりあえず智が気を付けると言ったから良しとしよう。
気持ちを切り替えるようにキャンバスに視線を向ける。
ディズニーパレードのと並行して最近描き始めた絵。
こっちはどうやら先日の海らしい。
「この絵、俺が帰ってくる頃には完成してる?」
「どうかな···ディズニーの方は描き終わると思うけど」
話が変わって、智があからさまにホッとした顔になった。
「そっか」
途中経過を見れないのは残念だけど。
俺にはまだ見えない完成形を見るのを楽しみにしてるんだ。
「フランス気をつけて楽しんできてよ」
「ああ」
フランスに行くこと自体は楽しみなんだけどな。
智と会えないことが寂しい。
そして1人にすることが心配でたまらないなんて。
俺も翔を笑えなくなってきたな。