第10章 夏休み4
俺がここで他の部員を見たのは2回。
1人は夏休みが始まったばっかの頃。
俺が来た時にはそいつは既にここに居たんだけど、完全に手を止めて智に見惚れていた。
開いてたスケッチブックは真っ白で、いつから居んのか知らないけどずっと智を見ていたのは一目瞭然だった。
俺が現れたことに気付くと妙に焦って、言い訳めいたことを言いながらバタバタと帰っていった。
別の日にもう1人。
その時は、俺はもうここに居て智の近くで本を読んでいて。
ドアが開いた気配に顔を上げたら入ってこようとしたやつと目が合った。
そいつは智と俺を何度か見比べると、少しガッカリしたような何とも言えない顔で俺に会釈してそのまま去って行った。
どっちも部員なんだから、部外者の俺なんか気にせず堂々としてりゃいいのに。
ああいう態度を取るってことは何かやましい気持ちがあるってことなんじゃねーの?
それ以降は誰にも会ってない。
智はどちらの時も集中モードだったから、他のやつが来てたことを知らない。
智は可愛いから、狙ってるやつは大勢いる。
ニノと同じくらい狙われてんだよ。
ニノには翔がついてるから、その分フリーな智の方が危ないくらいだ。
「何なのじゃねーよ。俺は智のこと心配してんの!」
「俺なんかに何かあるはずないじゃん」
自覚のなさは智もニノのこと言えない。
「智は可愛いんだって。言っただろ?ニノより可愛いって」
「そんなこと言うの潤だけだよ」
困ったようにそっぽ向いた頬は真っ赤で。
ほら、その顔だって可愛い。
「そんなことない。みんな可愛いって思ってる」
「可愛いって言うな」
「嫌だ。智が分かるまで言う」
「なっ···」
口をパクパクしてるけど知らない。
分かるまで言い続けてやる!