第1章 恋に落ちる
ーSsideー
カズの体調は心配だったけど、何となく帰りたくないのかなって思った。
1人になると嫌なこと思い出しちゃうかなって。
だから少しでも気持ちが紛れればと思って、もちろんちょっと下心もあって引き留めてしまった。
カズのためにって思ってたのに、話していたら俺が楽しくなっちゃって。
時間なんて全然気にしてなかった。
今まで話したことがなかったなんて嘘みたいにカズの隣は居心地が良くて。
他愛ないことでも楽しそうに笑ってくれて、くるくる変わる表情から目が離せなかった。
話せば話すほど、知れば知るほど、カズのことをもっと好きになった。
どさくさに紛れて手まで握ってしまって。
男っぽくない小さくてフワフワした可愛いらしい手にまたドキドキした。
調子に乗った俺は「側にいてほしい」って、つい本音をこぼしてしまった。
こんなカズの弱味につけこむような誘い方、ズルいって思うけど。
心配する気持ちは本当なんだ。
「どうかな?」
返事がないことに不安になる。
男なのに守ってあげるとか言われて嫌な気持ちにさせちゃったかな。
俺の下心に気付いて気持ち悪いって思ってるかな。
ドキドキして待っていると
「俺なんかに今日みたいなこと、もうないと思うけど···」
少し困ったようにカズが口を開いた。
カズは自分が可愛いって自覚がないのか。
こんなに可愛いのに。
というか、男に好意を持たれるっていうのが理解出来ないのかもしれない。
普通そうだよな。
男が男に好かれるなんて思わないよな。
「でも翔ちゃんが側にいてくれたらすごい心強いよ。だから···隣にいさせてくれる?」
ニコッと笑いながら小首を傾げるカズは、もうどうしようもなく可愛かった。
叫びたいような気持ちを我慢して。
心の中で大きくガッツポーズした。
にやける頬を必死に抑える。
冷静を装って明日の待ち合わせ時間を決めて、LINEも交換して、今度こそ本当に別れた。
本当は家の前まで送って行きたかったけど、すぐそこだからと断られた。
その代わり家に着くまで見送る。
カズは時々振り返っては、バイバイと小さく手を振ってくれる。
カズが家に入ったのを確認して、ようやく俺も駅に向かった。