第1章 恋に落ちる
そのまま2人で色んなこと話した。
家族のこと、中学のこと、友だちのこと。
何しろお互いのこと何も知らないから、話すことなんていくらでもあった。
俺のために明るく振る舞って、会話も途切れないようにしてくれてて。
俺が沈まないようにしてくれてるのが分かる。
翔ちゃんとのお喋りはただ楽しくて。
時間も忘れてて、気付いたら薄暗くなってきてた。
部活終わりっぽい生徒の姿も見える。
さすがにもう帰らなくちゃ。
「暗くなって来たね。翔ちゃん電車なのに遅くまでごめんね」
「いや、こっちこそごめん。楽しくて時間気にしてなかった」
翔ちゃんも楽しいって思ってくれてたんだ。
良かった···嬉しい。
翔ちゃんは立ち上がると、手を差し出した。
握手?
このタイミングで?
なんでだろって思ったけど、とりあえずその手を握ってみたら、そのまま引っ張って立ち上がらせてくれた。
「あ、ありがと」
だから俺、女の子じゃないのに...なんてまた思うけど、本当は嬉しい。そして照れる。
「今日は本当にありがとね。また明日ね」
名残惜しいけど、仕方ない。
そうしたら翔ちゃんから思いがけない提案をしてくれた。
「あのさ···カズが嫌じゃなかったら明日の朝一緒に学校行かない?」
「え···?」
嫌なわけない。むしろ嬉しい。
でも、なんで?
「それでさ···朝だけじゃなくて。学校でもしばらく俺の側にいてよ。カズ可愛いからさ、他にも変なこと考えるやついるかもしれないし」
翔ちゃんがちょっと照れたようにはにかむ。
「隣にいたら俺が守ってあげられるから」
······え?
えぇーーーーーっ!!?
翔ちゃんが俺のこと可愛いって言った!
側にいてよって!
守ってあげるって!
聞き間違いじゃないよね?
何これ?夢?
こんな展開、本当に現実にあるの?
現実味がなさすぎて頬をつねりたくなる。
「どうかな?」
俺の動揺に気付かない翔ちゃんは、いたって普通だ。
当たり前だけど翔ちゃんに変な気持ちはなくて。
きっと今日あんなところ見ちゃったから、純粋に心配してくれてるんだ。
もしかしたら責任感みたいなものも感じてくれてるのかもしれない。
優しいな、翔ちゃん。
優しさに甘えちゃっていいのかな。
迷惑じゃないのかな。